Echolink

iLINK

 iLINKをご存じの人はもうずいぶん少数派になってしまった。iLINKはEcholinkの前身となるアマチュア無線家のためのVoIPのプログラムである。MSNメッセンジャーやYahooメッセンジャーはすでに存在していた。しかし、それらは、ハムのためのプログラムではない。ハムのためには、IRLPがあったが、アメリカ国内が中心で必ずしも国際的なものとはいえなかった。iLINKはそれらに較べて、国際的で、何より、コールを持った無線家同士の交信なので紳士的だった。私がiLINKを始めたのは、21世紀の初めの年だったと思う。サイクル23のピークが終わり、ちょうどHFのコンディションが悪くなってきたときで、パソコンのスクリーンに見えていれば、どの相手とも交信できることに驚き、感激した。話をしているとあっと言うまに時間が過ぎてしまう。当時は、インターネットも電話回線の従量制で時間を気にしながら話していた。

Echolinkの誕生echo-1

 2002年の5月にiLINKを引き継ぐ形でEcholinkができた。ノードナンバーもiLINKのものをそのまま継承し、しばらくのあいだは、iLINK、Echolinkとも共存していた。Echolinkのプログラムのダウンロードは、http://echolink.org/から行える。ご存じのように、Echolinkでは、リストに見える局のコールサインをダブルクリックすると相手とつながり、交信が始まる。混信もなく、コンディションが悪くなることもないので、30分くらいの交信は普通である。共通語が英語なので英語の実際的なe-Learningでもある。Echolinkができた頃には、局数も少なく日本の局もめずらしかったので、ヨーロッパの局からよく呼ばれた。リレー局やリンク局は少なく、コンピュータユーザーの局が多かった。ログインしているすべての局がスクロールなしで一望できた。そのころ交信した相手が一番懐かしいし、また今でも交流が続いている。

 Echolinkに必要なPCのスペックはそう高くない。Windows98でも大丈夫だし、インターネットとの接続スピードも56Kbpsあれば、十分である。Echolinkができた当初は、ブレークアップもたびたびあったが゜、現在のシステムは非常に安定していて、まず途中で切れてしまうことはなくなっている。私も、IBMのThinkpad 380XD(PentiumⅡ266Mhz)とWindows98のFirst Editionを予備機として使用しているが、問題なく動作している。

ech6

 Echolinkは、インターネット上の疑似QSOであり、本当のアマチュア無線ではないという人もいる。しかし、住宅事情からアンテナを張れなかったり、インターフェアがあったりしてQSOをあきらめている人には確実に朗報である。Echolinkによって再びアマチュア無線の醍醐味を味わうことができたという人も多い。これは実にHFの世界である。しかもコンディションも関係なく、QRMもQSBもない。いわば59-59で常にワールドワイドに開かれている。パイルアップがないので、レアカントリーとも、簡単に、しかもゆっくりと話ができる。残念ながら、ふつうQSLの交換はしないし、たとえ交換したとしてもDXCCにカウントされることはないが、ラグチュー好きの人間にとっては、もってこいの通信手段である。

無線機とのリンク

 無線を使いたいというのなら、無線機からリンクすることができる。ベース局となるトランシーバーと移動用のトランシーバーがあればリンクが完成する。この場合ベース局には、Echolinkに接続するための簡単なインターフェースが必要である。部品も少なく自作しても手間はかからない。このインターフェースはPSK31やRTTY用にも使用できる。また移動用のトランシーバーにはDTMFパッドが付いていると都合がよい。DTMFのトーン信号でベース局を通し て、Echolinkを制御できる。

 日本ではあまり盛んでないが、外国ではUHFのレピーターの使用が盛んである。そして、レピーターと接続しているEcholinkのベース局も多い。こういった場合は、そのベース局を通じて、レピーターを経由した外国のUHF局と交信が可能である。外国では初級局はUHFしか使用できない場合が多いので、相手にとって初めての日本との交信ということもありうる。相手局がモービル局であったり、ハンディトランシーバーの局であったりということも多い。カードをねだられたりして、相手にとっては貴重な交信となっているらしい。こういったおもしろい体験ができるのもEcholinkならではである。

Echolinkの現状

 かつてEcholinkを利用するためには、IPアドレスを固定することが必要であった。ルーターの設定ができないためにEcholinkをあきらめたという話もよく聞いた。しかし、現在は設定が非常に簡単になっていて、ルーターの設定もポートの穴空けも必要なくなった。ウィルス対策用ソフトがインストールされていても動作する。EcholinkのプログラムをダウンロードするだけでEcholinkが開通するようになった。かくして現在の登録局は40万を超えた。また4000局以上がいつもログインしている状態である。しかし、である。私にはEcholinkの魅力が以前と比べて薄れてきたような気がしてきている。初めての交信となる局からは呼ばれなくなったし、初めての局を呼びにくくなった。なぜだか遠慮してしまうのだ。昔は、ログインするとすぐ誰かに呼ばれたし、私も積極的に呼びかけた。しかし、今は、ログインしているだけでは、1時間も2時間も誰からも呼ばれないということが多い。いつでも必ず交信が成立するので、話題がなければ、あえて交信する必要がないのかも知れない。アマチュア無線とは贅沢な趣味で、多少の不確定性がないと楽しめないのかもしれない。少し寂しい気がしている。