FCCライセンス

アメリカのアマチュア免許

 日本の資格は何とか1級まで持っているが、アメリカの資格も取ってみたいと考えるようになった。アメリカの資格があれば、総合運用協定を使って多くの国でコールサインをもらえるかも知れない。試験は、日本の電気通信管理局に当たるFCCが管理している。そしてひょんなことからFCCの試験を受けることとなった。日本で受験できることを知って以来、いつかは受験したいと思ってはいたのだが、もう少し先の受験を考えていた。

 たまたまインターネットをみていたら、約1ヶ月先の2005年3月20日に岡山で、試験を行っている。3月の下旬だと少しは自由になる時間もある。さっそく実際に試験を執り行うVE(Volunteer Examiner)にメールを送って受験を申し込んだ。受けるならExtraまで一気に受験したい。

試験の内容

 アメリカの資格は下から順にTechnician、General、 Extraとなっている。筆記試験は、クラス別にQuestion Poolという問題集があって、Technicianで507問、Generalで431問、Extraで804問の問題が載っている。実際の試験はそのQuestion Poolのなかから出題される。TechnicianとGeneralで35問、Extraで50問が出題され、TechnicianとGeneralで35問中26問、Extraで50問中37問正解すると合格である。試験は4択である。Question Poolは、http://www.arrl.org/arrlvec/pools.htmlからダウンロードできる。

 また現在ではなくなっているが、当時は、筆記試験とは別にモールス試験があった。Technicianだけなら、モールス試験を受ける必要はない。このモールス試験も昔より簡単になっていて、速度はわずか5WPM(Words Per Minute)。日本の3級程度のスピードである。ラジカセから実際の交信と同じような文章が送信され、それを受信する。たとえばW1AA DE W2ZZ/7 BT MY NAME IS KEN. UR RST IS 578…….といった調子である。しかも語と語の間を長くとってあるので、遅いわりには聞きやすい。5分間ほど続く文章のうち、どこか1分間ぶん間違いがなく受信できていれば合格である。またその受信に失敗した場合でも、つづいて相手局や自局のコールサイン、名前、QTH、リグなどに関する10問の問題が出され、そのうち7問以上正解で合格である。非常に簡単かつ実際的な出題形式である。ただ日本では、あまり使用しないピリオドやコンマなど特殊記号も聞き落とさないようにしないといけない。日本でCWをやっておられるOMにとっては、苦労はないと考えられる。

 しかし試験は、日本とは異なってTechnician、General、 Extraと下のクラスから順番に受けていかなければならない。飛び級してExtraだけというわけにはいかない。試験に時間制限はなく、途中で休憩することもできる。

受験勉強

 2月12日に受験を申し込むとともに、Question Poolをダウンロードした。A4版の用紙でTechnicianとGeneralで70ページ、Extraで130ページに及ぶ問題を見て、ギョッとした。もちろんすべて英語。専門用語もたくさんあるし、問題の意味がわからないものもある。しかしともかく丸暗記。私の感じでは、Technicianが一番とっつきにくかった。問題の意味をある程度理解しようと思ったこともあって、約3週間Technicianに費やした。常識でわかるような問題もあるが、人体に対する電磁波の影響など、日本の試験では出題されないような問題もある。ひととおり、Technicianを終えた時点で試験まであと2週間。しかしFCCの問題にも少しずつなれてきた。

 Generalの問題は、読み飛ばし、正解だけを覚えることにした。問題と正解の中のキーワードを蛍光ペンでマークし、問題と解答とに一対一対応の関係がつけられるように工夫した。選択枝の中の誤答を見てしまうと、迷いが生じるので、正解だけを暗記した。Extraも同様にしたが、やさしい計算問題は実際に計算することによって解くことができた。とはいえ物理の素養がないので、難しい計算問題は、相変わらず正解の丸暗記だ。GeneralとExtraはあわせて1週間で読み飛ばした。

 http://www.qrz.com/p/testing.pl やhttp://www.eham.net/exams/ に模擬試験のサイトがある。Question Poolに目を通した後は、模擬試験をやってみることをお勧めする。最後の数日間は、何回も模擬試験にチャレンジした。TechnicianやGeneralは、つねに合格点に達するようになったが、Extraはなかなか手ごわい。間違った問題はQuestion Poolで見直してみる。

 何度も模擬試験をやってみるうちに、よく出る問題とまったくでない問題があることに気づく。出題される問題の頻度に差があり、逆にいえば、模擬試験で10回程度高得点をとれれば、Question Poolの問題にあたらなくても合格点は取れると思う。そうこうしている内に受験当日となった。

受験当日

 岡山へは大阪から高速バスが出ている。難波から岡山まで3時間、往復で5610円。新幹線や新快速も考えたが、バスが一番安い。バスの中でQuestion Poolを見直そうと思った。しかしこれは甘い考えだった。バスは意外にゆれがひどく見直すことができない。11時30分に岡山駅に到着し、昼食を取り会場の岡山放送へと向かう。試験は13時からだ。12時40分に会場につく。すでに何人かの受験者らしき人を見かけたが、そのほとんどは実際は受験者ではなくVEだった。

 実際の受験者は3人。まず住所(アメリカに郵便のつく住所が必要である)や名前を記入。受験料として14ドル、邦貨で1500円を払った。そのあとCDラジカセでモールスのテストがあった。1分間ほど練習用のデモが流れたあと、本番の受信であるが思っていた以上に受信しやすい。大文字の活字体で書いても十分に時間的余裕がある。まずは、エレメント1クリヤーである。すでに13時30分になっていた。

 つづいてTechnicianのテスト用紙が配られる。A3二つ折りくらいの用紙に問題が35問。問題用紙に書き込みはできない。別に解答用紙があり、4つの選択枝から正しいものをマークする。Question Poolや模擬試験では、選択枝は常に同じ順序で並んでいるが、本番では、選択枝はランダムに並び替えられている。見直しも含めて30分で終了。VEに用紙を提出して採点してもらう。VEは正解部分に穴のあいたプラスチック板を解答用紙の上にのせて採点。3人のVEが確認するようになっている。「おめでとうございます」。これでエレメント2クリヤーとなった。

 「Generalも受験されますか」と聞かれたので、「お願いします」と答えて、いったん部屋を退出。10分くらい復習をし、軽く体操をして、部屋に戻ると机の上にはGeneralの問題がおいてあった。Generalから計算問題がある。電卓も使用できる。これも約30分で済まし、まあ大丈夫かなと思いながら提出した。またもや「おめでとうございます」の声を聞くことができた。これで、HFで1.5KWの運用ができる。ここまでで2階級制覇した気分である。

 「Extraも受けます」とVEに声をかけて、再び退出。しばらくすると隣の席で受験していたOMが出てこられて、この方もGeneral合格されたとのこと。しかし、Extraは受験しないとおっしゃって帰って行かれた。もう一人の方は、すでにエレメント1だけ受けて帰られたようだ。この時点で受験者は私一人となる。今度は少し気合いを入れて、20分くらいQuestion Poolを見直し、深呼吸して入室。

 さすがにExtraは手ごわい。全然わからない問題もある。わかる問題をまず解いた。出題された問題のうち、13問は間違えられるのだからと思い直して、次にあやふやな問題を解いていくことにした。あやふやな問題が、15問くらい、分からない問題も3問くらいある。いや分かっていると思った問題も間違っているかもしれない。とにかくミスを少なくするために解答の選択枝をよく読んで、いかにも正答らしいのを選んでいく。Extraには1時間かかった。落ちていたらもう一度受験したらいいと思って、用紙を提出。あまり自信がなかったが、VEがプラスチック板を当てて正答数を数えていくのをみていた。37を超えた様子なので、心の中で、ガッツポーズ。3名のVEが確認して合格が確定。一日で最終のExtraまで突破することができて、とても効率の良い受験だった。

 このあと、VEの渡してくれる用紙に署名し、免許申請用の用紙を受け取りVEと雑談して、会場を後にした。一度にExtraまでいくのは、そんなに多くないらしい。岡山駅前で帰りのバスの時間まで、一人で祝杯をあげたのはいうまでもない。

コールサイン付与

 日本では、1級の受験に8900円、従免申請に1750円、局免申請に8100円かかる。FCCは、受験手数料15ドルだけでコールサインをもらうまでのすべてがOKである。VEはまさしくVolunteer Examinerであって、受験から、免許申請まで面倒をみてくれる。10日程度で免許がおりると聞いていた。FCCのULS(Universal Licensing System)  http://wireless.fcc.gov/uls/では免許付与状態がオンラインでわかるようになっている。それで試験後1週間くらいからは、ULS をたびたびのぞいた。すると3月29日に免許がおりていて、コールはAB2TU。なかなかいいコールサインだ。

 ところが、である。免許人の名前が一字間違っているのだ。私の名前はTeruakiなのだが、それがTerukaiとなっている。Teruakiなんて「照り焼き」と間違えそうなので気を利かしてTerukaiにしたのだろうか。FCCの単なるタイプミスだとは思う。しかし、どう訂正したらいいのか。試験を受けたVEにメールを書いて相談してみた。ULSで訂正できるのではというアドバイスをいただく。ULSをのぞいてみると、たしかにOnline Filingのところで訂正できそうである。しかし、こちらのミスではないのだからと思い、FCCのChairmanにメールを書いて訂正を求めた。それと同時に念のためにULSを使って訂正申請をしておいた。すると2.3日後には訂正が受け付けられて、免許人の名前が正しくなっているではないか。またFCCからもメールの返事があり、私の正 しい名前を反映した免許がおりている旨がかかれてある。手間のかかる日本のお役所仕事とは違ってすこぶる対応が早い。アメリカのシステムの機敏さを実感したよい経験であった。

バニティコール

 さて、AB2TUのコールは憶えやすいいいコールだとは思うが、せっかくExtraをとったのだから、1×2のコールサインが欲しい。Vanity Callの システムを利用して、日本のコールに似た新しいコールを申請しよう。どんなコールが空いているか調べてみる。N4MCの作成しているVanity Call Signのページhttp://www.vanityhq.com/を開き、N4MCの顔写真の横のVanity HQの部分をクリックすると、現在どんなコールが空いているかがわかる。JA3QUUに似たものではK3QUとN3QUとがある。QUUはアメリカでは、Q符号の中に入れられており、割り当てそのものがない。早速K3QUを申請することにした。

FCCライセンス

K3QUの免許

 申請は、上記の http://wireless.fcc.gov/uls/からできる。まずページのONLINE FILINGの横の「log in」のボタンを押して、受験の時のFCC Registration Number(FRN)とPasswordを打ち込む。するとMy Licensesのページが現れるので、その右側にあるwork on this licenseの中のRequest Vanity Call Signをクリックする。このページがVanity Callの申請のページとなっている。希望するコールを記入して、どんどん進んでいくと申請が完了する。また上記のページ http://www.vanityhq.com/ で、いまどこまで手続き状況が進んでいるかも見ることができる。私もたびたびのぞいてみた。そこでは、K3QUはコールの競合もなく、4月26日に免許されることまでわかる。実際2005年4月26日付でK3QUが免許された。

最近思うこと

 ところで最近思うことがある。それは今までの記述と矛盾することでもある。2008年の夏の時点で、WやKで始まる1×2のコールサインの空きはなく、Nのプリフィックスでも、空いているのは30に満たない。しかしアメリカ人のExtraの中には、たとえば自分のイニシャルで始まる1×2のコールサインを欲しい人も多くいるだろう。1×2や2×1のコールサインは貴重な資源だ。それを外国人が安易に消費していいのか、このことを最近考えるようになった。アメリカで運用の機会が多く、頻繁にそのコールを使用するなら許されるかも知れない。しかし私にはそのような機会はない。自分にとっても心苦しいところであるが、とくに情報収集力に優れ、日本で勤勉にFCC試験の勉強に励む私たちにとっても考えるべき問題ではないだろうか。

FCC免許の更新

 Flisense1CCの免許の有効期間は10年である。K3QUの免許は2005年4月26日発行なので2015年が免許更新の年である。免許の切れる3ヶ月前から更新が可能であり、その時期にFCCのULSをのぞいてみると、更新可能のボタンが現れる。メーリングアドレスや氏名などに変更がなければ、そのまま進んでいき、めでたく免許更新となる。私の場合は、バニティコールなので、クレジットカードで約20ドル支払う必要があった。

 ところで、2015年2月17日より、FCCのシステムが変更となり、紙の免許か、オンラインの免許かを選択できるようになった。オンラインの免許は、FCCのサイトからダウンロードして自分で印刷することになる。私の場合、免許更新日は2月10日だったので、紙の免許がメーリングアドレスに送られてきた。旧システムでは、ほぼ最後の免許更新だろう。

 その後、念のため、FCCのULSを除いてみると、私の免許もダウンロードできるようになっている。自分の免許にしかアクセスすることができないので、確かなことはわからないが、古い免許保持者もオンラインで免許をダウンロードできるようになっているのだろうと考えている。